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Belonging

カートと付き合うことになった。
あの奉仕活動以来カートとマックスの二人とよくつるむようになって。二人が住むマンションに入り浸るようになって。ある日カートに告白された。よく分からんけど、もし別れることになっても友達続けてくれるなら、という俺のもごもごとした返事をカートが受け入れたから。今、俺とカートは付き合っている。

でも何か変わったかというとよく分からない。
結局二人の部屋には入り浸っていて。つまりはマックスもそこにいて。三人でつるんでる時とあんまり変わらない。
一応明らかに変わったことが二つ。
最寄りの駅までの送り迎えがカートだけになったこと。いままではマックスも来てたのに。
そんで、マックスがふざけて俺の頭を撫でたりしなくなったこと。そして代わりにカートの距離が近くなっていた。

駅まで送り迎えされてるのはちょっと情けないとは思うんだけど、二人が住んでるエリアが結構普通に治安悪いから、そこはもうおとなしく受け入れている。
電車降りて改札出る前にすぐわかる。改札向こうに総長ぐらいデカいサイボーグの男が立っている。
身長や体格だけなら他にも似た奴はいるけど。カートはなんだか目立つ気がする。オフの日によく見る黒いジャケットを着た、顔の上だけ生身のサイボーグ。端末いじって暇そうにしてる様子はあきらか誰かを待ってます風で。
合流しようと歩き始めたら、改札向こうにいた女のヒト二人がカートに近づいていく。あ、と思った時には目の前でナンパされていた。思わず柱に隠れたのは仕方がないと思う。
「お兄さんよくここで立ってるよね? ナンパ待ち?」
「違うけど」
「えー、でも待ちぼうけじゃん。これからアタシらと飲み行かない?」
飲む以外の目的もありそうだけど。思いながら見ていたら女がカートの腕に擦り寄る。あ、と口から声が出そうになって慌てて手で塞いだ。
「俺これからデートだから。悪いんだけど」
「アタシらとデートしようよ。彼女さんより絶対楽しいから」
「んー」
マックスに言われたことがある。カートはナンパを撒くのが下手だって。でもたぶん、あいつの場合下手に撒こうとすると相手を怪我させる可能性があるから、強めに出れないだけだと思っている。
俺も同じように扱われてるから分かる。カートから手を上げられることは勿論ない。俺がカートを殴ったとしても俺の手の方が折れるって言ってたし。
あの女の腕を物理的に振り払うことが出来ないのはカートが無闇に傷つけるのを嫌がってるからだ。でもこのまま俺が出てってもどうにもならない気がする。どうするか。
柱の影に隠れたまま端末を出す。カートのIDに発信する。目の前でナンパされているカートがそれに気づいてすぐに通話に出た。
『もしもし』
「カート。あー、……その、俺のことカナちんって呼んでいいから」
『うん?』
「ナンパされてんの見えてる。だから、えっと、この通話ダシにしてなんか上手く逃げらんないか」
『……』
カートが黙る。見ると、女二人をカートが見下ろしている。そして視線が改札の中、俺の方に向けられる。
『……うん、カナちゃん、ちょっとくらい遅れても大丈夫だから。一人でこっちまで来れそ?』
ぶわ、と背筋が撫でられるような声がする。
カートなのは分かってるのに聞いたことがないくらい、なんていうんだ、これ。低いまんまなんだけど。ちょっと話し方が違うっていうか。これが甘い声っていうんだろうか。
驚いて向こうを見ると、女二人も俺と同じようなリアクションをしている。いやごめんけど。俺もこんなん食らうとは思ってなかったんだけど。
「あー、こ、来れる。てかこっちの声向こうにバレそう? 俺もなんかしたほうがいい?」
『ううん。平気。俺は着いてるから。次ので着く?』
「ん。じゃあ、次の電車きたらそっち合流する。ナンパ撒けそう?」
『まだ電車なのにかけてくれてありがと。そっち怒られるかもだからもう切ろうか。大丈夫、待ってる』
ぷつ、と通話が切れる。
耳がまだくすぐったい。あいつあんな声出せんの。何。怖。すご。カートヤバい。
本来の目的を思い出して改札向こうを伺う。見ると顔を赤くした女二人は、カートのなるべく穏便な断りでようやく離れていった。
ちょうど次の電車が着く。ヒトがパラパラと改札を通る隙に俺も便乗する。

なんとかカートと合流できた。カートはデカいからヒトがいても見失わずに済む。
「カート」
駆け寄ると少しだけカートが目を細める。
「ん。通話あんがと、助かった」
いつもの声でほっとする。あと少しだけ、ちょっとだけいつもの声だなあと思ってしまった。
「お、おう。いいんだけど。お前すげえじゃん。自力でどうにかできたんじゃねえの」
駅を離れて歩き始める。付き合い始めると、カートは前より少し近くで歩くようになった。
「いや、通話でカナタくんに言われてからこうしよって思って対処できたから。俺もうちょっとでマックスに連絡するとこだったわ」
「お前まだ困ったらマックスにかけてんのかよ」
呆れながら言うと、カートが俺の肩を掴んで引き寄せるから。こういう時、俺は、お、とか思ってしまう。
体格差がデカすぎて俺の頭はカートの胸くらいまでしかない。カートもずっと下を向いてくれてる。嬉しい、という気持ちより先に申し訳なさがきて、あとは恥ずかしい気持ちもある。
「何……」
「今度からカナちゃんに連絡してもいい?」
ぞく、と背筋が震える。この声。端末越しじゃないとぞくぞくが増える。それはカートの声がそうなってんのか、俺がカートと付き合ってるから意識しすぎなのか。分からないけど、とにかく返事をしないとと頭がぐるぐるしている。
「い、いいけど、言わなくて済むならカナちゃんってのは言うな」
「分かった」
「……あと、普段もカナちゃんって呼ぶなよ」
「うん」
路地の暗さに紛れながら歩く。カートの手が、俺の肩から下りて手を繋ごうとする。こいつ。こういうことしたいタイプなのか。顔が赤くなってる気がする。冷えた金属のサイボーグ義手に指を絡め取られる。
「……家、マックスいんだろ」
「いるけど今日はオンラインでゲームするつってた。だから俺の部屋行こ」
「……」
大丈夫だろうか。今日なんか怖くなってきた。だって泊まる予定なんだけど。いや、カートだから、ヤバくなったら、言えば、なんとかなる、のか?
混乱する頭のまま足は動いて、二人がルームシェアしてるマンションに向かっていく。どうしよ。俺普通ぶって話せるだろうか。とりあえずやるしかないんだろうけど。